アードモア

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アードモア(ARDMORE)

鷲こそが、蒸留所の守り神

アードモア蒸溜所は、近隣のハイランドやスペイサイドの蒸溜所とは異なる独自路線を歩んできた。ハイランド地域に分類されるが、スペイサイドとハイランドの境界線上に存在することからスペイサイドに分類されることもある。蒸溜所自身は、ハイランドの蒸溜所とする。

アードモアは歴史的にブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ」のキーモルトとして製造されてきたこともあり、蒸溜所についての情報がこれまで一般に知られることは少なかった。それはまた、カルトウイスキー的な存在であって、シングルモルトのボトリングも限られていたため希少な存在でもあった。マイケル・ジャクソンによると、
「あまり有名ではないが、かなりの規模の蒸溜所である。ティーチャーズの主要な原酒であり、一部の愛好家集団ではシングルモルトとして好評を得ている」
と、コメントしている(「モルトウイスキー・コンパニオン」)。

しかし、ビーム・サントリー社の傘下となって安定供給が実現すると、ウイスキーファンの注目が集まるようになった。2014年にはそれまでのブランドを一新し、ヨーロッパ市場で確かな実力を証明ししつつある。

スコットランドのアバディーンシャー州ケネスモント近郊を流れるボギー川のほとりにある。そこは、牧歌的な丘陵地であって、近郊にはクラッシュインダーロックの森もあり、たっぷりと自然に包まれている。この地周辺は大麦の産地であり、ピート、清冽な水の供給が容易で、鉄道の便もよく、ウイスキーづくりに最高の環境といえる。ラベルには、蒸溜所の守り神とされる銅色の鷲が描かれている。

1898年 グラスゴーのウイスキー商アダム・ティーチャーが、自社で製造・販売するブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ・ハイランド・クリーム」のキーモルトになるピーテッド・ウイスキーを生産するために設立したモルトウイスキー専門の蒸溜所だ。ケネスモントの地を選んだのも、かれだ。

“Ardmore”は「大きな岬」を意味するスコットランド・ゲール語”àird mhór”からなのだが、そんな海から遠く離れた丘陵地にある蒸溜所の名前が、なぜアードモア(「岬」)なのか。じつは創業者ウィリアムズ・ティーチャーが住んでいたグラスゴーの邸宅の名前なのだ。アダムが、生まれ育った家の名前をつけたのだ。

「ティーチャーズ」のためのスモーキーなモルトづくりは変わることがない。ハイランドの気候風土がもたらす要素が凝縮されたようなシングルモルトだ。ブレンドに使われるその香味は、ピーテッド麦芽を使用した心地よいスモーキーさと、麦芽を効かせた甘くスケールの大きい味わいとの評価がある。ハイランドの伝統的な香味スタイルを象徴するモルトウイスキーとも表現され、しなやかなピーティーさや果実味、複雑さをいだいている。

とりわけ特筆すべきは、ドライでさわやかなスモーキー・フレーバーだ。それは、ピーテッドと、ノンピーテッドの麦芽2種を使っていることだ。それも、2つの原酒をつくってきたことだ。ノンピーテッド麦芽が加わることで、ハイランドの伝統の香味に、絶妙なバランスからより洗練されたライトな感覚をもたらしている。

蒸溜所のマネージャーであるアリスター・ロングウェル氏によると、こうだ。
「ピートはすべて、蒸溜所から約65kmのセントファーガスで切り出された地元産のものを使用。アバディーン州のピートは海岸地帯のピートと異なり、ミズゴケを含まないのでアイラモルトなどのようなヨウ素や塩っぽさがない。その代わり、炭や燃えさしを思わせるドライなスモーク香を生み出すのである」

原料の大麦は、伝統的に地元アバディーンシャー産を使用しつづけている。ワンパッチ麦芽12トン。そして1975年まではアードモア蒸溜所内で製麦をおこなっていた。それ以降はモルトスター(麦芽製造会社)に委託。現在はピーテッドと、ノンピーテッドの両方の麦芽を使用している。モルトスターに委託してはいるが、ピーテッド麦芽の場合、使用するピートはもちろん地元産である。古典ともいえるハイランドスタイルを守りつづる蒸溜所といえる。

仕込み水は、蒸溜所北に位置するノッカンディの丘に湧く清冽な水を使用。麦汁を得る糖化には7時間をもかける。発酵槽は、ダグラスファー(米松)の木桶発酵槽で14基。ディスティラー酵母で53時間をかけて発酵し、アルコール度数8.6または8.7%のもろみをつくる。

蒸溜器は、1955年に2基のポットスチル(単式蒸留器)が追加され、1974年にはさらに4基のポットスチルが追加されたことで、初溜4基、再溜4基の計8基となった。初溜液のアルコール度数は25~26%。再溜でアルコール度数68%のニューメイクを得る。オニオン型の蒸溜器で蒸溜したニューメイクは1st.フィルのバーボン樽に詰める。

また、いまでもクォーターカスクでの熟成をおこなっている。これはバーボン樽を解体して製樽し直した約127ℓの小樽のこと。大昔に馬の背に乗せやすいことから生まれた樽であり、現在は使用されことは稀となってきている。ときおりにポートワインに使われたパンチョン樽でも熟成をおこなう。貯蔵庫は、アードモア蒸溜所とティーチャーズ社のあるグラスゴーの2カ所にある。

なお、この蒸留所は、かつては独自に麦芽製造会社と樽製造会社を持っていたものの、麦芽の製造は1970年代半ばに中止、樽の製造も1980年代後半に中止した。以降は、他社より麦芽や、樽を購入して生産している。

また、2001年の初め頃までは石炭を燃料とした直火方式のポットスチルを使用して蒸留していたものの、その後は、高温蒸気を用いた間接加熱方式のポットスチルでの蒸留に変更した。生産能力も、555万lと小規模な蒸溜所が多い東ハイランドの蒸溜所としては最大級。

「アードモア レガシー」は、以前のオフィシャルボトル「トラディショナル・カスク」の後継として誕生、この蒸溜所の伝統をしっかりと現代に受け継ぐ商品。2016年にリリースされた。

ピートの効いたスモーキーな原酒を使用し、フルボディで、ドライなスパイス香が魅力だ。グラスに注ぐと、バニラや蜂蜜の香りと共に、繊細なスモーク香が放たれる。味わいには濃厚な甘みやフルーティーさが感じられ、心地良い樽香を伴ったフィニッシュも爽快。ビームサントリー社によると、おすすめの飲み方はハイボールであるという。新感覚の「煙香るハイボール」。

しかし、トラディショナルがピーテッドモルト100%だったのに対し、レガシーはその割合が80%、ノンピーテッドモルトが20%の配合となっています。そして、レガシーに使われているピーテッドモルトのフェノール値は12~14PPMと、比較的ライト。このライトリーピーテッドな味わいも、ヘビータイプのモルトが使われていたトラディショナルとの違いであろう。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。