アイラの女王、ボウモア!

スポンサーリンク

アイラの女王、ボウモア!

スコットランド西南、そのアイラ島の南から、島の中央まで切り込んだ深い入り江ロッホ・インダールの中ほどにある。1779年、地元商人デヴィッド・シンプソンが創設。アイラ島最古の蒸溜所は、ボウモア町の小さな港のそばに建つ。

金色のパゴダを思わせる、うり二つ塔のキルンがそびえている。それがボウモア(Bowmore)蒸溜所のシンボル、麦芽乾燥塔だ。ボウモアとは、「大きな岩礁」というイミ。ピートにも、長い間に潮風がしみこんで、海藻の匂いがする。村の家なみはおろか、暮らしまでも、昔のまんま。春になると、蒸溜所の男たちは、3人一組みで湿原に出かけ、独特な弧を描いたようなシャベルでピートを切り出す。

かぐわしいスモーキー・フレーバーが特長で、
「アイラモルトなら、ボウモア」
という熱烈なボウモア・ファンがいるほどの人気のモルト。南部のヘビーなモルトと、北部のライトなモルトの中間的なモルトを生産している。

ボウモア蒸溜所は、昔ながらのフロアモルティングで麦芽をつくり、ピートを燃やし、乾燥させる。発酵、蒸溜もじっくりとおこない、いわば人の手によるそのままの蒸溜所である。それだけ、伝統や熟練の技がたいせつにされ、島の自然風土が、ストレートに出たウイスキーが生まれてくるのだ。18世紀には、ボウモア村のウイスキーは、
「豊かで洗練された品質」
というキャッチフレーズとともに、イギリス国内に知れわたっていたようである。

創業以来、改装、拡張を繰り返し、経営が悪化してから所有者も転々とした。状況は最悪のなかで、1963年にグラスゴーのスタンレー・P・モリソン社の所有となり、あの幻の銘酒「ブラックボウモア」を生むことになる。その銘酒、熟成には厳選されたシェリー樽を使用。

けたはずずれなほど濃厚で、深くて、強い味わいが特徴。果実臭、ピート、それにパワフルさがかんぺきといったふうに高い評価を受けている。

1994年、2000本限定で販売も、あっという間に完売。それに味をしめたのか、翌度師19995年、またも2000本販売したが、これも完売。なんどか繰り返し発売したが、価格はうなぎのぼり。

そして、ついには2007年、ファイナル・エディションと銘うって、42年もの熟成の5樽、827本を限定販売。なんと発売時の価格が50万円。それでも、またたくまに完売したというおそるべきシロモノ。また、同年、1851年ボトリングの現存する最古のオールドボトルが、オークションでおよそ700万円の高値で落札された。

1989年、サントリーが30%の資本参入した。1994年にはモリソン・ボウモア社として、完全子会社化。それ以降、サントリーがボウモア蒸留所のオーナーである。ボウモアを、
「アイラモルトの女王」
と、サントリーは表現する。洗練されたかぐわしい香りを持つ。アイラモルトの全体像を知るのに、最適の酒である。ピートを炊く時間が短いためか、さわやかで、穏やかな磯の風味。ややピーティでややスモーキー。鑑定家によって、ラベンダー、ヘザー、ハニーと様々な香りが指摘されている。それが、スモーキーな潮味、ピート味とマッチして、非常に魅惑的なモルトとなっている。
バランスがよく、食後酒向き。

蒸留所では、ピート(泥炭)の影響の濃いラーガン川をマザー・ウォーターを水源。バーボン樽やオロロソ・シェリー樽による熟成をおこなう。ウエアハウスは波しぶきを浴びる海辺にあり、潮の香りを呼吸しながら熟成を続ける。そのなかの1号ウエアハウスは、大潮どきに、満潮と、強い海風がかさなると、この熟成庫は、1メートルほど海に沈んでしまうのだ。もちろん、ウイスキーにはなんら影響はない。

アイラ島は南海岸のモルトは、強烈で個性的。北海岸のモルトは、穏やかな味わい。ボウモアは、場所も中間なら、味わいも中間ともいわれるが、マイケル・ジャクソンは、その著書「ウィスキー・コンパニオン」のなかで、
「地理的にも、風味の上でも、ボウモアのウィスキーの特徴は両者の妥協点というべきではなく、むしろ謎のようなものであり、鑑定家たちはその複雑さを解き明かすことの困難さを知っている」
としている。

フロアモルティングで麦芽をつくる。ピートを燃やして乾燥し、木桶発酵させる。受け継がれたストレート・ヘッド型ポットスチルで蒸溜する、という昔ながらの製法を守り続けている。そのポットスチルは、初溜・再溜あわせて4基あり、加熱方法はスチーム過熱式を採用している。

サントリーになってから、オフィシャル品のラインナップの多さが際立つ。なかでも、12年ものは、金褐色をし、海草由来のピート香と、ラベンダーを彷彿させる独特の香りに、オーク由来の熟成香がバランスよくとけ合っている。ミディアムボディながら、しっかりとした風味がファンを魅了している。2007年、ボトル・ラベルデザインが変更された。カモメの絵柄のラベルから、シンプルなロゴのデザインになった。

※参考図書;「スコッチウイスキー紀行」(著者:土屋 守、刊行:東京書籍)。



クラリネット協奏曲イ長調  K.622 シフリンの演奏で聴く ♪

どこまでも澄みきった天上の調べというべきか。この上ないやすらぎと、穏やかさに満ちている。ゆったりしたテンポ、優美な音色、どんなときもふくよかに、かつニュアンス豊かに奏でられる。どうして、これほど単純な音階の並びだけで、これほどの深い感動を呼び覚ますことができるのか、音楽史上の奇跡の一つというしかない。

モーツァルトが、協奏曲のジャンルで残した最後の作品。また、クラリネットのための唯一の協奏曲でもある。ごく親しい友人アントーン・シュタートラーのために作曲された。

シュタートラーは、ウィーン宮廷楽団に仕えていた。当時、並ぶもののないクラリネットの名手であった。この協奏曲と、そしてこの楽器のためのもうひとつの傑作、「クラリネット五重奏曲 」とともに、シュタートラーのすぐれた演奏技法に刺激されて、モーツァルトが筆をとったものだ。 クラリネット協奏曲が明るい軽い悲哀感とすれば、クラリネット五重奏曲は暗い悲哀感が滲み出るようである。

この協奏曲の場合には、ほどよい活気をはらんだ、すこやかな官能的気分が、いつも漂っている。そうした情調が、最晩年の創作を貫く静かに澄みきった響のなかに、みごとに融け込んでいる。

メロディーラインは、流れるように透明で、明確。シフリンによる演奏は、クラリネット奏者の間では、名盤中の名盤。テクニックは絶妙。豊かで深みのある音色。シフリンのために制作された楽器を使用しているためか、低音部の鳴らしかたは、すばらしい。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。