カクテルの魅力は、こだわりにあり! (1)

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カクテルの魅力は、こだわりにあり! (1)

世界中にカクテルの種類なんて、はたしてどれだけあるのか、誰も知らないだろうし、構ったりなんかもしないだろう。だからといって、そんななかでも常識的に知っておいた方がいいカクテルとなると、これもまたなかなかすんなりともいかない。

というのも、いろいろな説があって、意見が分かれることは間違いないからだ。それでも、最低これだけは知っておきたいカクテルの目安として、7種のカクテルをちょいと紹介してみよう。

ドライ・マティーニ

「ドライ・マティーニ、ウオッカで…」
と、いつの頃からか、口グセになっている。ご存知のように、007こと、ジェームス・ボンドが好んで飲むウォッカ・マティーニだ。ウォッカと、ベルモットをステアせずに、シェイクする。オリーブはない。

それは、名匠ビリー・ワイルダーの映画・「アパートの鍵貸します」でのジャック・レモンが、オリーブを刺したカクテル・ピンを引き上げ、カウンターに並べているシーンがあった。かれにとっても、ツマであるオリーブは必要ないのだ。

さて、そんなマティーニだが、
「シェイクすると味が落ちるため、バー・スプーンで静かにステアすること」
といいならわされてはいるが、シェイクしても味が落ちることはないというが、どうなのかな。こういうことも、いわれている。それは、
「分子の官能的な配列を乱す」
というのが、英・作家サマセット・モームの主張なのだが…

無色であり、透明であるマティーニが、シェイクすることによって、細かな気泡をふくみ、白濁する。シェイクをすることによって、よりマイルドになり、より口当たりをよくする効果がある。さらに、ジンをウォッカにかえることによって、ジン特有の「ねず」の実の香りがなくなり、薬草や香草で味つけされたベルモットの香りを、より一層際立たせることができる。ところが、お酒の温度と、味わいの関係がビミョーに重要になってくるのだ。

とかなんとかいっても、やっぱりミキシング・グラスをつかいたい。
「水洗いをし、面取りをした大き目の氷を入れ、ついで、冷凍したウオッカと、冷えたドライ・ベルモットを7対1の割合でそそぎ、オレンジ・ビターを1ダッシュ」
ついで、
「バー・スプーンで、氷をいたわるように、8~12回ぐらいステアをする。つぎに、レモン・ピールを20~30cmのところから、霧状に吹きつけ、香りづけ。最後に、カクテル・ピンにさしたグリーン・オリーブを飾る」
と書けば、それでこと足りるのだが、ことマティーニに関してはそうもいかない。レシピだけで、1冊の本が書けるくらいあり、みんながそれぞれに、大いにこだわりをもっているのだ。それにつけ、
「カクテルなんて、ドライ・マティーニさえ知っていれば、充分」
という、ヤカラもいることはいる。

ちょいと昔の話だが、東京・銀座、「テンダー」の上田和男氏によると、
「5対1がベスト。それ以上だと、カクテルとしてのバランスをくずす」
という。サーブされる丸みのあるグラスと同じように、ベルモットの存在が分かるまろやかなマティーニだ。

しかし、「モーリ・バー」(東京・銀座)では、そのベルモットを、ほんのひと垂らししか入れない。もちろん、超辛口だ。その分、ジンにはこだわりがある。細心の配慮と、手慣れた技術でサーブされるマティーニだ。

辛口志向の現代にあっては、おおむね7対1の割合のようだ。また、ステアは強い酒は強いまま、そのとんがった味わいを引き立てる。それに、ぼくの愛飲する「ウォッカ・マティーニ」は、ジンに比べ、よりドライに感じるのだ。そのウオッカは、北欧の生んだ最大の作曲家・シベリウスの傑作にちなんで「フィンランディア」があれば、それにするくらいで、べつにこだわりはない。

それはそうと、誕生当時のマティーニは甘かった。それも当然、スイート・ベルモットを使っていて、色も赤かった。それが、「マンハッタン」に由来するマティーニ誕生説になっている。

ディナー前のつかの間のひととき。差し出されたドライ・マティーニが気に入れば、2杯目をオーダー。シンプルでいて、それでいて奥が深い。やはり、カクテルのなかのカクテルだ。それに、お客さまの数だけ、レシピがある。じつに、バーテンダー泣かせのカクテルである。

◆参考図書;「サライが選んだ老舗バー」(サライ編集部編 小学館刊)

■■スタンダード・カクテル(1);「マティーニ」■



マンハッタン

ついで、「マンハッタン」をとりあげてみよう。

言わずと知れたウイスキー・ベースの代表格である。別名、「カクテルの女王」。「マティーニ」が、「王さま」として語られるのと、同じである。

わが国では、一般的であるバーボンではなく、カナディアン・ウイスキーになっている。それも、通称「C.C」(カナディアン・クラブ)だ。オリジナル・レシピはこうだ。ミキシング・グラスに、氷をたっぷり入れて、
・ カナディアン・ウイスキー 2/3
・ スウィート・ヴェルモット 1/3
・ アンゴスチュラ・ビターズ 1ダッシュ
長いスプーンで混ぜあわせ、カクテル・グラスに移して、
・ レッド・チェリー 1個
を飾る。けっこう甘口だ。あの職人肌の名匠ビリー・ワイルダー監督の禁酒法時代を背景にしているスラップスティック・コメディ、「お熱いのがお好き」で、マリリン・モンローが車内でつくろうとしたのが、マンハッタン。ベースのブランド名までは、憶えていないのが、残念である。

まあ、一般的には、カナディアン・ウイスキーをも含め、アメリカン・ウイスキーを使えばいいらしい。それと、もう一つ、わが国だけだろうが、最後にレモン・ピールをふりかけるが、これは香りをさっと流す程度でよい。

といっても、マンハッタン誕生説の歴史は古い。それも、れっきとしたアメリカ生まれのカクテルだ。諸説あるが、そのなかでも有力なのが、19代アメリカ大統領選の支援パーティでの出来事、1876年のことだ。

民主党支持の銀行家・ジェローム氏の娘が、即興でつくったといわれている。社交界の花形だったそのかの女こそは、驚くなかれ、後年イギリス首相となるあのチャーチルの母親だったのだ。酒にこだわり、一言居士であった彼は、母親の遺伝だったのかもしれない。マンハッタンという名前は、このカクテルがつくられたクラブ名からきているらしい。

しかし、現今の辛口嗜好に合わせてか、マンハッタンもスィート・ヴェルモットをドライにかえて、ドライ・マンハッタンなるものも登場して久しい。ウイスキーと、ヴェルモットの割合は、4:1、ないしは5:1のようだ。

でも、それがなんとも不思議なことに、ウイスキーはバーボンじゃなく、ライ・ウイスキーになっているんだよなぁと、これは昔の話。最近では、やはりバーボン・ベースでつくることが多いらしい。それにつけ、
「カクテルなんて、ドライ・マティーニさえ知っていたら十分だよ」
なんて言っている人たちも、いるにはいる。まあ、乱暴なハナシだが、カクテルなんて、そんなものかもしれないなぁ。



■■スタンダード・カクテル(2);「マンハッタン」■

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