「雄鹿の紋章」、ダルモア!

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「雄鹿の紋章」、ダルモア!

ハイランドを代表するブランドである。どっしりとしたボトルデザインが特徴的な、ダルモア。シガーの芳香とマッチするブーケと、アロマ、と書き出しを考えてみたが、なぜかしっくりこない。

というのも、歴史と伝統ある蒸溜所のため、長熟品が数多く残されており、ロンドンや香港でおこわれるメジャーオークションではもはや常連。その一方で、高級路線を目指し、華やかなラインナップを発売しつつ、価格上昇をもたらし、やたら金銭にまつわる話が出まわっているのだ。

さて、「ダルモア蒸留所」は、1839年に、アレクサンダー・マセソンによって蒸留所が建てられたといわれている。かつてはハイランド氏族の名門として誉れ高い、かのマッケンジー家が所有していた。

ご先祖さまのひとり、クラン・マッケンジーは、ハンティング中に、雄ジカの角で負傷した当時のスコットランド国王アレキサンダー3世を助けた。その功績で、1263年に「雄鹿の紋章」が下賜されている。ダルモアの製品ラベルに誇らしげに描かれている鹿の頭のイラストが、この「雄鹿の紋章」である。

ハイランド地方の北海に通じるクロマティー湾の入り江沿い、アルネスという町の郊外にある。それに、周辺の山々はディアストーキング(鹿撃ち)の名所として、知られてきた。ちなみに、ダルモアは、ゲール語とノース語(ヴァイキングの言葉)の両方に起源をもつ単語で、「川辺の広大な草地」を意味する。

ダルモア蒸留所は原料の麦芽づくりや、ピート乾燥からはじまり、シェリー樽主体の貯蔵・熟成工程にいたるまで、昔ながらの伝統製法を守っている。大麦は、コンチェルトとクロニクル種のふたつ。すべてノンピート。

それに、珍しいスチルハウスがある。ポットスチルの形が非常にユニークなのだ。スピリッツ・スチルはウォーター・ジャケット(冷却装置)によって冷却されてはいる。そんなスピリッツ・スチルはランタン・ヘッド型にT字シェイプで、ウオッシュ・スチルは、首の部分から上に行くほど広がっている。

熟成庫はクロマティ湾の海辺にあり、85%がバーボンの中古樽で熟成され、残りは甘口シェリー樽(オロロソ・シェリー樽)で熟成される。そのシェリーの印象が強いダルモアは、ハイランドの中では例外的な存在。マリッジ(後熟)は、すべてシェリー樽でおこなわれる。シェリー風味のバランスは絶妙。フルーティな香りと甘み、柔らかい口当たりで、クセが無く飲みやすい仕上がりになっている。



また、そのふくよかな風味は、シガーとのマリアージュにも向いている。特に、シガーとの相性がよくなるように原酒が、シェリー樽60%、バーボン樽40%と、「シガーモルト」という名で商品化されている。

『ダルモア シガーモルト リザーブ』。
コクのある甘さ。モルトウイスキーのなかでも、極めて甘口。味わいはフレッシュな柑橘類と、甘いバニラが感じられる。オレンジマーマレードとス、パイスを感じさせる香りも特徴。

ダルモアの特徴のひとつが、樽へのこだわり。というのも、6種類の樽で熟成させたモルト原酒を使用しているという点で、とてもユニーク。カベルネソーヴィニヨン樽、マルサラ樽、マディラ樽、バーボン樽、ポート樽、オロロソ・シェリー樽を使用。そのシェリー樽は、シェリー酒の名門、あの「ティオ ペペ」で有名な「ゴンザレス・ビアス社」からマツサレム30年等の熟成に使用した樽の提供を受けている。

ダルモアの楽しみ方として、ストレート、ロックでも充分楽しめるが、少量の水を加えてみるのが、おすすめ。加水すると桃のような果実香が広がり、ストレートよりも一層、フレッシュさと甘みを感じることができる。もう一つは、ソーダ割り。甘みが非常に生きてくる。

ダルモアは、昔から、ホワイト&マッカイの核となるモルト原酒である。2代目オーナーのマッケンジー氏が、ホワイト&マッカイ社の創業者と親交があったことから、同社に対する原酒供給が開始された。

ホワイト&マッカイ社(UBグループ系列)は、4つのモルトウイスキー蒸留所(他はアイル・オブ・ジュラ、フェッターケアン、タムナヴーリン)を所有していた。が、そのなかでもっとも生産量が多かったのが、このダルモアだった。

小ぶりな蒸溜所ではあるが、年間で420 万リットルを誇り、同社のブレンデッドウイスキーのまさに中核をなしていた。が、皮肉なことに、高級路線への独自の展開をすすめるごとに、めまぐるしくオーナーが代わっていった。

後2007年、インドのユナイテッド・スピリッツ社の買収され、それから2014年、蒸溜所とブランドは親会社のホワイト&マッカイの蒸溜所とともにブランデー会社・エンペラードール社の売却された。オーナーが変わった現在もダルモアはその伝統の味わいを保ち続け、シングルモルトはもちろん、ホワイト&マッカイを支えるキーモルトとしても活躍している。

「ダルモア12年」。色は深みのある赤褐色で、香りはオレンジのような柑橘系のものとスパイスを感じさせるものが合わさり、とてもパワフル。これは 85%がバーボンの中古樽で熟成され、残りは甘口のシェリー樽で熟成され、さらにそのすべてを、シェリー樽に入れ替えて熟成されることによるものと思われる。

長年にわたり、シングルモルトの世界でのダルモアの存在は「12年」に限定されていた。しかし、最近では劇的に拡大し、「12年」、「15年」、「18年」、「25年」に加えて、「アレグザンダー3世」、「シガーモルト」、そして星座の名を冠した「シリウス」など華やかなラインナップを発売。残念ながら、それにつれ、価格も上昇中。

マイケル・ジャクソンの著書「モルトウイスキー・コンパニオン」によると、
「2013年、三代目マスターブレンダーのリチャード・パターソンが厳選した一度限りのコレクションが、ハロッズとの共同制作でおこなわれた。というのも、ダルモアは発売された高価なリミテッド・エディションが多く、そこにパターソンは目をつけ、『ミリオン・ポンド・ウイスキー』として、注目を浴びさせたがった。が、ハロッズは98万7500ポンドの希望価格を出した」
という。マスターブレンダーのリチャード・パターソンをはじめとするお金にまつわる強力な下地はあったにせよ、急激な拡大路線をとりつつ、ここ最近のどうにも納得のいかない高級、高価志向への転換をはかっているせいもあろう。



それ以前からも年代物を出しており、価格もだんぜん高価になり、そのなかには黒い陶製ボトル「50年」ものというものもあった。きわめつけは、「ダルモア・トリニタス」だ。2010年、3本限定で販売され、事前販売されていた2本をのぞいて、3本目は12万5000ポンドで販売された。

参考図書;「スコッチウィスキー紀行」(土屋 守著 東京書籍刊)
シングルモルトウイスキー大全」(土屋 守著 小学館刊)

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。

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