タリスカー、スコットランドの最高傑作(1)

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ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (中村為治訳 「R.バーンズ詩集」岩波文庫)

タリスカー(Talisker)、スコットランドの最高傑作


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スコットランドの北西、ヘブリティーズ諸島のうんと先、北海油田に近い神秘の島、スカイ島が誇る唯一の蒸留所であり、
「もっとも個性的なモルト」
と、マイケル・ジャクソンは、その著書「モルトウィスキー・コンパニオン」に書いた。

その爆発的、かつまた複雑な香味の特徴が、愛好家を惹きつけてやまない。こくのあるドライフルーツの甘さに、煙のほこりっぽさ、強いフレーバー、パワフルなテイスト。荒々しい潮の味わいは、スカイ島の自然を思わせる。

それは、一口ふくむと、分かる。まるで火がついたような熱いものが、口いっぱいに広がっていく。まさにハードボイルが似合うモルトである。

いっとき幻の酒とさわがれ、あの「007」の新シリーズ、マティーニ好きのジェームス・ボンドでさえ、スコットランドに乗り込んださいに、オーダーした貴族のステイタスでもあるシロモノだ。

UDV社の系列で、UDクラシック・モルトのアイランズ・モルトを代表する銘柄。独特のポットスチルがあり、特徴的なフレーバーを生みだす一つの理由ともなっている。ジョニー・ウォーカーなどのブレンド用のウイスキーを出荷し、その割合の方が多い。

「宝島」などの作品で知られる小説家・スティーブンソンが、
「酒の王者として思いつくのはタリスカー、アイラ、もしくはグレンリヴェット」
と、タリスカーの名前を挙げて、
「独自のスタイルをもっている」
と述べているのも、興味あるエピソードである。その独自のスタイルというのは、おそらく1928年までおこなわれていた3回蒸留のことだと思われるが、どうか?

その当時、タリスカーは海路をつかって、大麦を受け取り、ウイスキーを出荷していた。その状況はというと、ある程度まとまった樽を結びつけて、海上に浮かべ、沖合で待っている”フグ”と呼ばれる小型蒸気船に引き上げてもらうしかなかった。

スカイ島のゲール語名は、「霧の島」。そう、ミスティ・アイランドだ。海岸線が複雑であり、切り立った山々が多いため、霧が発生しやすく、一年のほとんどが霧におおわれる典型的な海洋性気候だ。

その西岸地域は、クーリン山脈として知られる黒い山々によって島のほかの部分から遮断されており、地元の人々は昆布をとって、石鹸やガラスをつくり、かろうじて生計を立てていた。

貧しい教区にもかかわらず、
「蒸留所の設立は、神の摂理において起こり得た最も忌まわしい出来事の一つであった」
と、地元の聖職者マクラウド牧師の怒りをかいもした。

タリスカー蒸留所は、もとは豪族マクラウド家が所有したスカイ島西岸にあたる農場、タリスカーハウスにちなんでいて、創業したヒューとケネスのマッカスキル兄弟が、近隣のアイグ島から移り住み、その蒸留所名をつけたという。

そのマクラウド家は、1266年、ヴァイキングの支配から解放されたスカイ島を、マクドナルド家、マッキノン家とともに3分割し、統治しようとしたが、これがまたあらたな抗争劇につながっていく。

そのタリスカーとは、ノース語で「傾いた大岩」や、「斜面上の大岩」などという意味合いがあるらしい。

ほかの多くの農場経営者のように、かれらもまたウイスキーづくりは副業と考えており、いくつか失敗をかさねながら、やっとのことハーポート湖に隣接するカーボストに場所を定め、1830年、タリスカー蒸留所はこの地に、3、000ポンドの費用をかけて設立された。

1823年までには、スカイ島にも免許を持つ7つの蒸留所が存在したことが記録されており、やはりこの時代の常で、ほかに数十にものぼる無免許業者も蒸留をおこなっていたようだ。

1854年、タリスカーはわずか1,000ポンドで売りに出されてしまい、その後さまざまな所有者の手を転々とした。が、1892年にローデリック・ケンプと、A・G・アランとによって蒸留所の再建がおこなわれ、1898年にダルユーインと合併。1925年にはDCLの傘下に入り、現在はUDV社の所有する蒸留所の一つである。

また、余談だが、あのウイスキー・リキュールの傑作「ドランブイ」(Drambuie)にまつわる歴史も、今もって語られる。

1745年、スコットランド・スチュアート王家のポニー・プリンス・チャーリーは、王位継承のための戦いを起こした。しかし、カローデンの戦いでの敗北で、スカイ島に逃避行。

このイングランド政府のお尋ね者、懸賞金つきの王子を、その地の豪族でもあったマッキノン家のジョン・マッキノンがかくまい、フランスに逃したというハナシだ。王子は、そのごほうびとして、王家秘伝の酒の秘法を授けられたということだ。これこそ、ぜいたくな味わいとして有名なドランブイがそれだ。

あのボギーこと、ハンフリー・ボガードが愛飲したドランブイ。15年以上の上質のモルトをふくみ、40種におよぶスコッチ・ウイスキーをブレンドし、ヒースのエキス、各種ハーブを配合、それにヒースのハチミツを添加した逸品である。ちなみに、ボギーはストレートで飲んでいたということだ。

そのドランブイをつかったカクテルに、ラスティ・ネイル(Rusty Nail)がある。濃厚で、コクがある。スコッチとの割合が1:1だと甘く、3:1でやや甘口かな。食後酒、あるいはナイトキャップにどうぞ。そのドランブイにプラス、タリスカーとくれば、これぞ、究極の一品。

・・・・・・舌の上で爆発する、タリスカー(2)につづく・・・・・

※ 参考図書;「スコッチウイスキー紀行」(土屋 守著、東京書籍刊)