ザ・マッカラン、 伝説的なウイスキーの父!

singlemalt

ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (中村為治訳 「R・バーンズ詩集」岩波文庫)

「ザ・マッカラン(The Macallan)」 伝説的なウイスキーの父!

——————————————————————————–

「極めて巧妙なバランスがとれている。そして自然である。香りがまろやかである。舌ざわりは、まるでワインのようである」
と、作家・故開高 健氏によるマッカラン評である。つづけて、
「まこと日本人好みがするといえばそれまでかもしれないが、すくなくとも、酒と女でちびた私の丸い鼻にはピタッときた。私は興奮したナ」
と、こうである(下ネタ・エッセイ、「知的な痴的な教養講座」)。

頑固な酒造り職人がつくる、贅沢と品質の最高傑作「マッカラン」。ブレンダーが賞賛してやまない「トップ・ドレッシング」の一つであって、当然のことのように、世界的にもその名声がうたわれている。厳寒の地・スペイサイドの華やかさを持つ代表的な銘柄である。多様な商品展開もグンを抜き、まあ、その分さまざまな年代のマッカランが楽しめるというワケだ。

現在のマッカランは、超高級ブランドだ。新商品に1万ポンド以上の価格をつけることになんとも思わない。もう一つ、話題のボトルをリリースし、つねにシングルモルトのトレンドをつくってきた。

マッカラン蒸留所は、トラウト釣りで有名なスペイ川中流、クレイゲラキ村の対岸にあり、スペイ川を見下ろす高台にある。むかし、この地が『聖コロンバの丘』を意味するマ・コラムと呼ばれていたのが、マッカランと転訛したものであるという。

もともとは、「マッカラン農場の酒」として、近隣では評判の密造酒だった。創業者であるアレクサンダー・ライトの領地で収穫した大麦で、訪問者をもてなすお酒としてつくられていたということだ。

1824年、政府公認第2号蒸留所となり、ここに正式にオープンした。しかしながら、蒸留所の所有者は転々と代わり、これほどまでの名声をはくしたのは、1892年になって中興の祖・ロデリック・ケンプが買収してからのこと。そのかれの子孫によって、1946年にマッカラン・グレンリヴェット社が設立され、それ以来スペイサイドの伝統をかたくなに守り通している。

1996年にハイランド・ディスティラーズ・グループが買収、1999年からはサントリーを含むエドリントン・グループの所有となっている。1970年代初頭からシングルモルトに販売力を注ぎ、現在ではイギリスの国内市場で3位、世界市場でも5位。日本での人気度は、No.1だ。

この長い歴史のなかで、なんどもオーナーが変わったが、現在はエドリントン・グループが所有し、ハイランドパーク、グレンロセスとは姉妹蒸溜所となっている。

マッカランの大きな特徴としては、ザ・リンゴームの湧き水を使い、
1;原料大麦へのこだわり

スコットランド特有の二条大麦、値段も高く、収穫量も安定しないが、最高級品種であるゴールデン・プロミス種を使用。フレーバーが非常にデリシャスになるといわれているが、栽培困難で、その農家も減ったということで、およそ30%ほど使用してきていたが、ここ数年、自社で栽培していたゴールデン・プロミス畑をつぶしてまで、オプティック、ミンストロー、チャリオットなどの大麦品種を大幅に使用している。

2;製法へのこだわり

スペイサイド最小のストレートヘッド型ポットスチルと、ガスでの直火焚きが特徴。釜の形はずんぐりしたタマネギ型で、スワンネックは太め。過去に人気が出て増産しなければならなくなったとき、ステンレス製のスチルの大きさは変えずに、スチルの数を増やした、という話もある。これが、マッカランのどっしりとした厚みのある味わいをうみだすのだろう。

しかしながら、製法の変化の兆しが見えてきた。その一番目が、酵母だ。かつて2種類のエール酵母と、2種類の蒸留酒用酵母をミックスして使用していたが、現在は、1種類のみだそうだ。それも、リキッド・イースト菌に切り替わった。

また、初留釜は天然ガスによる直火焚きだが、再留釜はスティームによる間接加熱を採用した。この小さなスチルと、わずか16%というミドルカットの幅の狭さが、マッカランの芳醇でコクのある個性となっているのだ。1974年から75年にかけて大幅にポットスチルが増やされた。その結果、一時は初留×7基 再留×14基、全部で21基のスチルが稼動していた。現在使われているのは、そのうちの15基だ。

それと、もう一つ、ウエアハウス6棟の増設だ。現在、ダンネージ・ウエアハウス16棟、ラック式ウエアハウス21棟がある。さらには、80年代以降ウィスキー不況のため、長年使用されていなかった第2蒸留棟を復活させたことである。

3;シェリ-樽で熟成

貯蔵樽のすべてをシェリ-樽としている蒸留所は、マッカランだけである。それも、熟成用の樽もスペイン産ドライ・オロロソ・シェリーの貯蔵・熟成に、2年間用いたものを輸入して使うというこだわりようだ。それもファースト・フィルと、セカンド・フィルの2回だけしか使わないという徹底したこだわりっぷり。1976年に、樽材であるスパニッシュオークを安定的に確保するため、スペイン北部・ガリシア地方に森を所有。自らマッカラン仕様の新樽をつくり、シェリー醸造業者に無償で提供している。

赤みがかったコハク色、品のある甘さ、芳醇ともいえる芳香、これらはひとえにシェリーのしみこんだ樽がうみだしたものだ。スパニッシュ・オークは、ほかのオークとくらべ、木の成分が溶けやすいといわれる。

さて、そのマッカランは、「ザ・フェイマス・グラウス」などの有名なウイスキーの原酒としても使われていて、オフィシャルボトルの種類も多く、瓶詰業者からもいくつか出まわっている。しかしながら、2005年あたりから出まわり始めた新しいオフィシャルは、シェリーの空き樽の手当てが難しくなったためか、シェリー樽熟成100%ではなくなり、テイストに大きな変化があった。シェリー樽と、バーボン樽のヴァッテッドというフレコミで、「ファインオーク・シリーズ」として、リリースされた。



マイケル・ジャクソンは、その著書「ウィスキー・コンパニオン」のなかで、ザ・マッカランの信奉者ということで有名な小説家のキングスレー・エイミスは、
「10年もののヴァージョンは最上の酒である」
と主張するも、多くの愛好家は18年ものを選ぶ。別の小説家、モーデカイ・リッチラーは好みのアロマを聞かれて、
「マッカラン・シングルモルト」
という単純な表現で答えている、と書いている。

現在のヴィンテージ・ウイスキーの流行は、マッカランが25年ものをはじめて販売したときからだった。当時としては、かなりユニークな試みだった。

たとえば、ザ・マッカラン1938は、1980年に発売された。これが1本1万5000ポンド以上の価格をつけるウイスキーの先駆けとなった。以後、年代物のウイスキーが売れ、そして高額な値段をつけることもいとわなくなったのだ。

いずれにしろ、年代物のマッカランはリッチで、優雅で、複雑な味わいがするといわれている。

オフィシャル12年は、日本ではスタンダードな逸品である。シェリー樽熟成によるバニラ香を感じ、中くらいから、ややソフトな口当たりに仕上がっている。果実のようなフルーティーな味わいも人気の秘訣だ。18年は、蒸留年の表示のあるシングル・ヴィンテージであって、マッカラン愛好家の一押しの一本。 色は、うすい紅茶のような赤みをおびたコハク色。12年と比較すると、違いがよく分かる。

グラスに鼻を近づけると、シェリーの甘く豊かな香りと同時に、ドライフルーツのような芳香、とても上品な香り。口に含むと、少しピリッとするが、まろやかで深いフルーツ香が広がり、かすかに樽香も。コクがあるのだが、重さはあまり感じない。 アフターの余韻は長い。

参考図書;「スコッチウィスキー紀行」土屋 守著、東京書籍刊。