グレンモーレンジ、数滴のお水をくわえて。

ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (「R・バーンズ詩集」中村為治訳 岩波文庫)

グレンモーレンジ、数滴のお水をくわえて。再投稿

グレンモーレンジの常識にとらわれないウィスキーづくりの特徴として、まずアルミニウム、カルシウムなどミネラルたっぷりの硬水を用いることが挙げられる。一般に、ウィスキーの仕込水は、軟水(硬度178以下)でなければならないとされている。しかし、めずしく硬度190のミネラルが豊富な硬水を使い、麦芽の糖化をおこなっていて、グレンモーレンジを風味豊かなものにしている。

それは、蒸留所から半マイルほど離れたところにある、そのあまりにも有名な「ターロギーの泉」と呼ばれる泉からひいている。森のなかの砂岩と、石灰岩の丘から湧き出る水が、ヘザーと、クローバーの花畑を流れくだり、その泉に流れ込んでいるのだ。この水は、フランスのある香水会社が調査したところ、およそ26ものアロマを感じられたという、とっても個性的な水なのである。


それに、もう一つ、スコットランドで高さ5.13mというもっとも首の高い蒸留器、建物でいうと、3階建てに相当する、ほかでは見かけないポットスチルを使って蒸留している。そもそもそれは、ウィスキー用ではなく、ジン用のポットスチルなのであった。

というのも、創業者であるウィリアム・マセソンが、創業時の資金不足から、ロンドンでジンの蒸留に用いられていた中古のポットスチル2基を購入して使用したことに由来している。

ところが、このジン用のポットスチルは、純度の高いアルコールのみを蒸留する効果があった。これによって、原酒はふくよかで、ライトなテイストに仕上がり、グレンモーレンジの芳香を豊かにするという思わぬ作用を生んだのだ。 このため、グレンモーレンジでは、ジン用のポットスチルを用いることを伝統とし、その後の増設の際にも、全く同じ形状のものを制作している。



現在、ウォッシュ・スチル(初留釜、11、400リットル)、スピリット・スチル(再留釜、8、200リットル)が所留4基、再留4基と、各4基ずつある。さらには、世界的なシングルモルト人気で、倍の16基へ増やすことが検討されていると聞く。

そうそう、その加熱方法を直火炊きから、現在、一般的になっている蒸気蒸留方式を採用した一番最初の蒸留所でもあるのだ。

さて、原料の大麦だが、地元ロス・シャー産の二条大麦だけを使用している。デンプン質が豊富で、タンパク質と窒素の含有量が少ないものが最適とされる。グレンモーレンジはそのスプリングバーディ(春型大麦)を使用している。冬型大麦もあって、春型に比べると、タンパク質が多く、デンプン質が少ない。

そのため、アルコールの取れる量は少ないが、フレーバーのよいスピリッツができる。このため、グレンモーレンジでは少しずつ、冬型大麦もブレンドして、モルティングしている。

使用する品種は3種。かつての粒が大きめで、噛んでいると甘みが出てくるプリズモ種などの品種はお役ごめん。オプティック、オックスブリッジ、コックテールに変わった。それにともなって、それぞれの品種ごとに、複数のモルトスター(製麦業者)を使い分けているようだ。

それと、いくつかのフルーティさは、自家製の酵母が関係しているようだ。それに、その酵母も従来のプレス状のイースト菌から、移動も管理もしやすく、そしてなにより品質が安定しているリキッド・イースト菌に切り替えた。そのため、ウォッシュバック(醗酵槽)に、重いペレスイースト菌の入った袋をかつぎあげて、入れなくてよくなったそうな。

余談だが、グレンモーレンジは、ナチュラルなテイストが特徴であって、ナッツや、バターのような風味を感じさせることがある。それは、あくまでピート処理がきわめて弱めであって、以前のように、ピートを切り出し、乾燥させ、燃料にする時代はおわり、工程中のほんの数時間だけ焚きこんで、香りづけをするくらいになっている。

さて、グレンモーレンジが最も重要と考える熟成だが、その多くのこだわりのひとつが、ウッドフィニッシュである。それによって、アロマ、フレーバー、そしてまろやかさという別の要素が加わるのだ。

非常にライトで、香りの弱いスピリッツなので、新樽を使用するとオークの香りが強くつきすぎてしまう。そのため、バーボンの古樽で12年ほど熟成させた後、最後の2年ほどをワイン、シェリー、ラム、ブランデーなどの樽で熟成をおこなう研究を続け、1980年から実験を開始した。この手法は、「ダブル・マチュアード(二段熟成)」ともいい、出来上がったウィスキーの風味に驚くほどの差異がもたらされる。

この研究の成果として送り出されたものが、1996年より発売開始されたポート、シェリー、マデイラのウッドフィニッシュ・シリーズである。

熟成に用いるバーボン樽は、「デザイナー・カスク」と呼ばれるオリジナルのもの。熟成の過程で、最も深く味わいを取り込める樽材を研究するなかで、かれらが見出したのは、アメリカ・ミズーリ州オザーク丘陵の北斜面、樹齢80~150年のアメリカン・オーク。年輪が詰まった木ほど、フレーバーに好ましい風味を与えてくれるという。

そのオークから切り出された樽板を、人工乾燥ではなく、2年以上も屋外でゆっくりと天日乾燥させ、いったん銘酒ジャック・ダニエルをつめてもらい、その熟成に4年間。その後、その空樽を蒸留所に空輸し、さらなるチェックを経て、スピリッツを注ぎ込み、長期間熟成させる。また、遠赤外線をつかった内面処理方法で、樽の内側を時間をかけてトースト。これが、フレーバーをより豊かに、バニラ、クリーム蜂蜜といったフレーバーをかもしだすことになる。

これまでも、ウッド・フィニッシュ・シリーズは、シェリー、ポート、マディラ、バーガンディの4種が知られていて、それぞれシェリー、ポートワイン、マディラ、バーガンディの樽でフィニッシュさせたものである。

そして、さらには有名シャトーの樽でフィニッシュさせたりした、リミテッド・エディションも多数ある。なかでも、「コート・ド・ニュイ・フィニッシュ」(ロマネ・コンティ)、「ソーテルヌ」(ディケム)、「エルミタージュ」(エルミタージュ)などが有名だ。とりわけ、日本ではシェリーと、ポートが多く輸入され、愛飲されてきた。

しかし、ウッドフィニッシュの用語自体も厳密になり、ボトリングのさいに使用するすべての樽がウッドフィニッシュされたものでなければ、ラベルに表記できなくなった。

とはいえ、「グレンモーレンジ18年」では、表記されてはいないが、実際におよそ全体の3割がウッドフィニッシュされている。そのため、長期熟成されたウイスキーならではの甘味、透明度の高い奥深い味わいを兼ねそなえている。ふくよかなボディ、微かなシェリーの香味がバランスよくまとまっている。食後酒に最適。

現在は、シェリー、ポート、ソーテルヌの3つの樽を定番とするが、これはあくまで追加の熟成であって、もちろんグレンモーレンジ本来のスタイルは変わらない。

☆参考図書 「スコッチウイスキー紀行」;著者:土屋 守、刊行:東京書籍。



♪ 「スコットランド幻想曲」。ブルッフは、スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズの「スコットランド民謡曲集」を手にしたとき、作曲を思いついたようだ。

前奏曲を入れて5楽章は連続で演奏される。しんみりと、明るく、それでいてノスタルジック。甘くてロマンティックなメロディは心を打つ。ハイフェッツで聴く。 ♪

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