キャンベルタウンの栄光を今に伝える、スプリングバンク!

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ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (中村為治訳 「R・バーンズ詩集」岩波文庫)

スプリンクバンク(Springbank)

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大西洋に向かって突き出したスコットランド西岸、キンタイア半島先端の小さな漁業の町であったキャンベルタウン。100年以上も前のこと、30以上もの蒸留所があり、まさしく世界のウイスキーの中心地であった。

今日では、わずかに2つの蒸溜所しか残っていないが、かつての栄光を今に伝えるそのうちの一つが、スプリングバンク蒸留所だ。きびしい時代を生き抜いてきたことは、品質の高いウィスキーをつくり続けてきたことの証しでもある。

それは、1983年にタイムズ紙が主催した品評会で、並みいる強豪を抑えて、スプリングバンク12年が、1位になったことからでもわかる。そのほかにも、数多くのコンテストで受賞歴があり、人気・実力ともに、イギリス国内では傑出したモルトである。

味わいは、シオ風をふくんださわやかなブリニー(塩味)がする。香りは、優雅な甘さがあるのも特徴ではあるが、それが甘さと、深みのあるコクにマッチし、絶妙のハーモニーを奏でている。とにかく、香りがたいへん豊かで、グラスに注いだだけで、部屋中に甘い香りが充満していくように思える。

レイド家が創業したのは1828年ではあるが、すぐに現オーナーのミッチェル家が買収。それは、1825年にリークラハン蒸留所がつくられ、そのかれらの密造用スチルのあった場所が、1828年にスプリングバンク蒸留所になったといわれる。スコットランドでは数少ない独立資本の蒸留所でもある。

禁酒法時代のアメリカに、急造の安ウイスキーを供給したおかげで、ずいぶんと評判を落とし、まもなく閉鎖されたといういわくつきの蒸留所でもある。しかし、1880年にあらたに建てかえられて、
「現在では全蒸留所の中で一番完璧に伝統を重んじているキャンベルタウン・スタイルの守護者にして主役である」
と、マイケル・ジャクソンは、自著「ウィスキー・コンパニオン」の冒頭で述べ、
「将来の展望を持った蒸留所の一つである」
と激賞している。それは、「25年、Limited Edition」に、最高点である95点をあたえていることからもわかる。

創業以来、スプリングバンクが一貫して守り続けてきたこだわりの製法がある。それは、すべての麦芽は自家製麦(フロアモルティング)をおこなっていることだ。

一日に仕込む麦芽量は12トン。浸麦、発酵 に3日、発芽完了まで7日を要する。今では珍しく、自社でのボトリングという最終工程までのすべてを蒸留所内でまかなっている。

そんなボトリング施設を持っている蒸留所は、スプリングバンク、グレンフィディック、ブルイックラディしかない。マーチャント・ボトラーズのケイデンヘッド社はスプリングバンクと同資本で、ボトリングはケイデンヘッドでおこなわれている。

仕込み水は、蒸留所からわずかに5キロ離れたキャンベルタウンの南に位置するクロスヒル湖の水を使用している。高度1、155フィートの山の北斜面から湧き出ている源泉からの水だ。キャンベルタウンの数多くあった蒸留所のために、アーガイル公キャンベルが19世紀につくらせた貯水池が、クロスヒル湖である。

ストレート型が3基。ローワインの一部を2回蒸留している。スプリングバンクでは、これを2回半蒸留と呼んでいる。初留釜は石炭の直火焚き、再留釜はスチーム式。それに、ウイスキーをろ過するのに、チル・フィルターを使わないところも、歴史の古い企業のプライドが感じられる。



それともう一つ、スプリングバンク蒸留所をユニークなものにしているのには、セカンド・ブランドの2回半蒸留の「ロングロウ」、さらに1997年から仕込みをはじめた3回蒸留の「ヘーゼルバーン」がある。

2つはリヴァイヴァル的なものであって、1824年から70年間にわたりロングロウは、実在した蒸留所である。スプリングバンクに比べて、強めにピートを炊き込んだものであって、オイリーでスモーキー、酒質は力強く、発売以来なかなか好評であると聞く。

それとは逆に、ヘーゼルバーンはいっさいピートを焚かず、3回蒸留である。当初、2006年に瓶詰予定であったが、2004年の春にプレミアム・ボトルが発売された。おどろくほど甘くて、ライトでスムーズ、バランスのとれた華やかな個性がはっきりでている。その名前の由来である「ヘイゼルバーン蒸留所」は、1796年から125年間操業していたといわれる。

さらには、「ウエストハイランド」と名づけられたボトルは、愛好家が夢見る幻の銘酒の一つだ。キャンベルタウンの大麦を原料に、同地で取られたピートで乾燥させ、蒸留釜の加熱には、地元産の石炭を使用といったぐあいに、すべて現地調達。バーボン樽熟成と、シェリー樽熟成の2種類がリリースされた。

1966年に蒸留、1991年にボトリングされたウエストハイランドは、そんなキャンベルタウン隆盛期の伝統を受け継ぐ最後のボトルといえるもの。ちなみに、現在オークションなどでは、希少価値も手伝って30万円近いという。

参考図書;「スコッチウィスキー紀行」土屋 守著、東京書籍刊。

♪ エルガー;チェロ協奏曲ホ短調 ♪

エルガー、晩年の傑作であり、大作。どこかさびしげで、哀愁を帯びた人気曲であり、名曲である。

もちろん、デュ・プレ(バルビローリ指揮/ロンドン交響楽団)で聴く。みごとな弾きっぷりのデュ・プレ、まるで音楽の神様が乗り移ったかのような入魂の演奏である。