スキャパ

singlemalt
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scapa 海辺のウイスキー

スキャパの独創性は、ローモンドスチルと、バーボンの古樽、そして職人の時間をかけた手仕事が生み出している。創業は、1885年。スコットランド北海のオークニー諸島にあるメインランド島の南部、北海と大西洋をつなぐ水路であるFLOW(スキャパ湾)を見下ろす高台に建てられている。

北海と大西洋をつなぐこのスキャパ・フローは、両大戦で英独間でしのぎあった戦略拠点でもあった。第一次世界大戦時の1918年はドイツ戦艦・ヒンデンブルグとセドリックが沈められ、崖から沈んだ戦艦の舟形が波間に見え、長い間、見物客で賑わったとのこと。蒸溜所はこの第一次世界大戦の間、この海峡に駐留していた英国海軍将校達の兵舎として使用され、ミルルームにはかれらがつくった木造の階段が残っている。逆に、第二次世界大戦時はUボートが侵入して、英国戦艦・ロイヤルオークを撃沈させた。そのため、廃船を沈め、侵攻を妨げためあのチャーチルバリアーが築かれたのだ。

オークニー諸島は、8世紀後半からノルウェー人流入が目立って多くなり、ついにはその後9世紀から600年間ものあいだ、ノルウェーの支配下だった。後、15世紀半ばころまでデンマーク領でもあった。そのためか、スコットランドというよりもヴァイキングというか北欧風の文化の影響が多く残っている。「スキャパ」とは、ノース語(ヴァイキングの言語)で「ボート」を意味する。また、「オイスター・ベッド」を意味することも。つまりは、牡蠣床。海風が強く、寒々とした風景とは違って、この美しい海には、牡蠣など豊かな魚介類が生育しているのだ。

グラスゴーのタウンゼントと、マクファーレンとのプライベート会社として設立。創業から2年目、1887年に伝説的なウイスキー評論家のアルフレッド・バーナードが蒸溜所を訪れたさいに、
「小さいながらも、英国内すべての蒸溜所のなかで最も完璧な蒸溜所」
と、メモに記述したそう。もともとは、この土地も以前から密造酒づくりが盛んにおこなわれてきた場所であって、古くからウイスキーを飲む風習はあったそうだ。

それというのも、その当時のスキャパ蒸溜所では、製麦〜醗酵〜蒸溜〜貯蔵と全工程をおこなうことができたのだ。直火での蒸溜が一般的だった19世紀当時から、メインの動力は水車だったが、補助用の動力源として蒸気エンジンも備わっていた。仕込水は蒸溜所背後にあるリングロ・バーンの泉と、その周辺の湧き水を使用。

この水はピートの影響がない、澄み切った軟水である。そためか、個性の強い同じオークニー島の蒸溜所のウイスキーと比べて、スムースで軽やかで、繊細なのだろう。というのも、水源地にあたるウェイフォード・ヒルの丘のあたりに、ちょいと厚めのビート層があるだけなのだ。水も優しくやわらかく、ミネラル分もさほど多くはない。

それと、ウイスキーの個性を決める樽香にしても、バーボン樽と、その古樽にこだわっている。そう、スキャパにしてみれば、樽香はほんのすこしだけでいいのだ。

1919年、スキャパ・ディスティラリーへと引き継がれ、1934年にいったん創業を停止。しかし、同36年、ブロッホ兄弟(ブロッホ・ブラザーズ社)が引き継ぎ、再開。かれらはキャンベルタウンのグレンスコシアと、グレンガイル蒸溜所のオーナーであって、かれらのつくるアンバサダー・ブレンドにスキャパが必要だったようだ。

その後、兄・モーリスは1954年、ハイラム・ウォーカー&サンズに売却。同社は設備の近代化に乗り出すも、1994年に世界的なウイスキーの人気の低迷を受けて一旦操業を停止する。そのとき導入したのが、同社が開発したローモンド・スチル。1950年代のこと。現存する唯一の連続式蒸留器・ローモンドスチルで、煙突型の蒸留器なのだ。ずんぐりとした独特な形状のスチルは、現在でもスキャパの初溜釜として稼働しており、特有の味わいや香りに大きな役割を果たしている。

当時、ストレート型のネックには精溜用のプレートが埋め込まれており、蒸溜釜から伸びるラインアームは取り換え可能。そのため、特性の異なる様々なタイプの原酒をつくり出すことのできる画期的なスチルでだった。

ローモンドスチルで蒸溜されたモルトは、“グレンクレイグ”、“モストウィー”と命名され、既存のモルトとは別のモルトとして扱われていた。しかしながら、1980年代初頭、それぞれ設置されていたグレンバーギーと、ミルトンダフ蒸溜所の需要が大きく増加したため、ローモンドスチルは従来型のスチルに置きかえられ、そのひとつがスキャパに移設された。

後、ハイラム・ウォーカー社を傘下におさめたアライド社が、そのスチルの外側だけを残し、なぜだか釜内のスチームコイルを取り除く荒業をやってのけた。結果的には、この外側だけのローモンドスチルがスキャパ独特の風味を生み出すとされているのもおもしろい。

さて、1997年からは近くにあるハイランドパーク蒸溜所の従業員が時折スキャパに出向し、設備を維持するために蒸溜を続けていたという。そして、創立120週年を間近にした2004年に、スコッチ・シングルモルトの世界的ブームを受けて再稼働。アライド社が、設備を大増強。蒸溜所も大改築して、初溜用1基、再溜用1基の合わせて2つのポットスチルを設置し、19世紀初頭における動力源の水車をも復元した。

現在はフランスの世界的酒造メーカー「ペルノ・リカール」社の元で稼働が続いている。新しいオーナーはシングルモルトのパッケージを一新し、熟成年数を14年から16年に引き上げた。2015年にはビジターセンターが開設され、新たに拡張されたレンジの導入が発表された。

使用する酵母はドライイーストで、発酵時間はなんと160時間。スコットランド最長の発酵時間として知られていた(現在は52時間程度に短縮)。麦芽には、ノンピートのものを使用。創業当時は麦芽の乾燥にコークスやピートを使用していたので、昔のスキャパは現在のものより相当ピーティーな味わいだったことが予想できる。

船首に似た内装の蒸溜室には、2基のポットスチルと地面に埋められたアルコール濃度検度器がある。初溜釜はあのローモンドスチルで、5時間をかけてじっくりと蒸溜している。容量9,000リットルの再溜釜は、一工程6時間半でおこなう玉ねぎ型。初めの15分間で溜出される蒸溜液を前溜とし、その後1時間半で本溜を確保、残りの時間の溜出液は後溜となる。こうして、新品の革とパイナップルの香りがする、と評されるライトなニューポットが誕生する。

蒸気は、スチル室のシェル&チューブタイプのコンデンサーで凝縮して液化される。これらの機器は隣り合わせにあって、ポットスチルからは25フィート程離れた位置に設置されている。出来上がった原酒は、新品の樽を意味する「ファーストフィル」のバーボン樽に詰められ、熟成工程へ。

海の近くにある熟成庫は潮の香りで満ちており、スキャパのドライな風味をつくり出すといわれている。現在でも原酒の管理は蒸溜所に勤める5人のクラフトマンにより、コンピューターは一切使わず、すべて手作業にておこなわれる。1997年には年間わずか10万リットルだった生産量も、現在では24時間シフトで週5日間スチルを稼働させることにより、純アルコール換算で年間100万リットルをつくれるまでになった。

スキャパのシングルモルトに使用するのは、ファーストフィルのバーボン樽のみ。ファーストフィルのバーボン樽はセカンドフィルのものと比べてより強いバニラの香り、フルーツの甘味を原酒に付与。スキャパ独特のパイナップルのような甘みは、これが要因。

バランタインのキーモルトではあるが、一般にはシングルモルトとしても華やかでフルーティーな『スキレン』と、スモーキーな樽で追熟させた『グランサ』がリリースされている。

「スキレン」は“輝き”“明るい空”を意味する。バニラや花を思わせる香りとなめらかな味わいが特長で、甘い余韻が長い。パッケージには、北海に浮かぶスキレンと比べると帆船をイメージしたデザインをあしらっている。通好みのウイスキーはというと、『グランサ』かな。アプリコットのような果実味、「スキレン」と比べるとスモーキーな風味。

『スキャパ 16年』;以前の主力コアレンジボトル。すばらしい飲み心地と、酔い心地は絶品なんだとか。

参考;「シングルモルトスコッチ大全」土屋 守(著) 小学館(刊)
シングルモルト 蒸溜所紀行」山田 健(著) たる出版(刊)

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