クライヌリッシュ

ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (中村為治訳 「R.バーンズ詩集」岩波文庫)

クライヌリッシュ(Clynelish)

クライヌリッシュは昔から銘酒とされ、スペイサイドのグレンリベットと比較されてきた。スコットランド本土にありながら、ピート香を内包し、酒質はややドライで、アイランズ・モルトの特徴をそなえている。

クライヌリッシュは、仕込み水をえているクラインミルトン川上流で、かつて砂金がとれたというからことから、ゲール語で、「黄金の湿地」だとする説がある。北ハイランドの東沿岸部、ゴルフとサーモン釣りで有名なリゾート地、ブローラの郊外にクライヌリッシュ蒸留所はある。

1819年、悪逆非道のスタッフォード伯爵、のちの初代サザーランド公によって創設された蒸留所である。当時、農業改革の波がハイランドにもおしよせ、それまでの農業から、広大な土地を必要とする羊の放牧へと転換。そのため、その領地に居住していた農民を、武力で強制退去させたという、いまわしい「ハイランド・クリアランス」騒動があった。この町のブローラという名称があたえられ、余剰大麦の利用と、密造酒への対策を兼ねて、自らの領地に蒸留所を建て、賃貸した。

蒸留所建設においても、かれは農民の密造酒をとりしまるためだというから驚く。そんな悪評をもろともせず、クライヌリッシュ蒸留所は早くから名声を確立していた。ラベルには、サザーランド公爵の副紋章、山猫が描かれ、その山中にはいまも生息しているという。



1925年にD・C・L社が買収。1967年、新たな蒸留所が道路をはさんだ向い側に建てられ、新生クライヌリッシュ蒸留所となった。旧蒸留所をブローラと命名。ところが、83年5月に古いほうの蒸留所はいったん閉鎖したが、1975年ブローラ蒸留所として再開したものの、1983年にまたもや閉鎖した。

ややこしいのは、1967年に新築された蒸留所がクライヌリッシュと名付けられるまでは、旧蒸留所がクライヌリッシュと呼ばれていたということだ。そして、その旧蒸留所がブローラと改名されたのである。

したがって、ブローラ蒸留所名義で造られたモルト・ウィスキーは69年から83年までの14年間のみ。69年以前に蒸留されたクライヌリッシュは、ブローラと同じものである。

マイケル・ジャクソンの「モルトウィスキー・コンパニオン」には、
「ブローラはとくにピート香の強い麦芽を使っていた。クライヌリッシュは中庸にピート香をつけた麦芽を使っている。ブローラのモルトはまだ、独立瓶詰め業者、あるいは酒屋のチェーンから出荷されるだろう」
と書いている。現在、跡地はクライヌリッシュの熟成庫と、ヴィジター・センターになっている。1986年以降はUD社(ユナイテッド・ディスティラーズ/現ディアジオ)の傘下となった。『花と動物シリーズ』がオフィシャル品の位置づけとなる。

UD社が所有する蒸留所のモルト原酒を、シングルモルトとしてオフィシャルに販売するという画期的な試みであって、それぞれの蒸留所にちなんだ植物や、動物をラベルに描いたものである。しかし、20種類ほど発売されはしたが、今では製造中止になっている。ちなみに、クライヌリッシュは、山猫だ。

蒸留所が沿岸部に位置していることから、ハイランドの中でもアイランズ的な特徴を持つ蒸留所と言われている。味わいは比較的個性的で、海、潮、海藻…など島物風モルトの特徴の風味をやや感じ、ややスパイシー。

フルーティー、ピートのバランスがとれた香りとボディのしっかりした味わいが特徴である。若いモルトはワックスを連想させ、麦芽風味をしっかり残しているという印象がある。また、長熟モルトは香りに華やかさが加わり、味わいもややスパイシー。

芳香性に優れた、堅調なボディ。海洋性を帯びている。滑らかで、粘度のある舌触り。ハイランドモルトらしい軽さは無く、感じの良い、潮風の強さを持つ。

クライヌリッシュの最大限の奥深さと複雑味を引き出すために、マスター・ディスティラーは、2段熟成樽を自ら選び出し、ダーク・オロロソ・セコシェリー樽に移し、この美味なシングルモルトの軽い甘さとフローラルなスタイルに、ドライな木の実の豊かさを足しています。

熟成には、バーボン樽やホグスヘッドを用いたものが多く、シェリー樽熟成をほとんど見かけないのも特徴といえる。ところが、なぜかブローラは結構シェリー熟成が多い。スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティはこのモルトをコードNo.26として好んでボトリングするが、若いモルトも、長期熟成ものも、それぞれに素晴らしい。

シルクのように滑らかでこくがあり、深く豊かな余韻が味わえる。食前食後を問わない優れたオールラウンダーで、知る人ぞ知る通好みの一本。



クライヌリッシュよりもブローラ、つまり古い蒸留所で造られていたシングルモルトの方が、より個性が強い味のつくりだったといわれている。

ちなみに、ブローラとはヴァイキングがつけた地名で「橋のある川」の意。仕込み水はクラインミルトン川から採取、初留釜、再留釜各一基を持ち、カードゥ、タリスカーと共にジョニー・ウォーカーのキーモルト。現在ではポットスチルの数は六基に増えている。

そのブローラと、クライヌリッシュの違いだが、スチルも麦芽も仕込み水も、さらには熟成庫も従来のものと全く同じであり、設備が近代的になったにすぎない。ブローラの方がややスパイシーで苦みが強いということであろうか。言い換えればフレンチ・オークに屡々見られる樽から滲みだしたタンニンのなせるわざである。

最近のボトルで云えば、U.D.Vやシグナトリー社のカスクストレングス・コレクション、イアン・マクロード社のチーフテンズ、ボトラーズ社などに顕著。他方、ダグラス・レイン社の約半数とダグラス・マクギボン社、ロンバード社、同じマクロード社だがダン・ベーガンのボトルは23年ものがホグスヘッド、24年ものがフィノ・シェリーである。従って苦みは少なく、素顔のブローラに近いと云える。

69年以降のクライヌリッシュと以前のそれとはフェノール値が異なると聞くが、真偽のほどは知らない。ただ、ピート香にさしたる変化は認められない。前述した苦みをピート香と勘違いしているのではあるまいか。思うに、煤の臭い、焦げたオークのスモーキーなキャラクター、噛み応えのあるタンニンと云ったブローラの特質を味わうには若いモルトが最適である。

とはいっても新しい蒸留所、つまりクライヌリッシュは、スチルも麦芽も仕込み水も、さらには熟成庫も従来のものと全く一緒であり設備が近代的になったにすぎない。もちろん味は伝統的な味を保っている。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。

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