ブラッドノック

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浮沈を繰り返したブラッドノック!

Bladnoch ローランド

スコットランド最南端の蒸溜所。ブラッドノック川という名前からつけられた。あの国民詩人ロバート・バーンズのゆかりの地、バーンズ・カントリーの南ウイグタウンのはずれにある。ケルト色が強く、スコットランドの中でも温和な気候の土地でもある。マッカーズ半島の付け根にあったている。ちなみにブラドノックは「平坦で低い土地」とか、ゲール語で「花の場所」を意味しているようである。

創業は1817年。トーマスとジョンのマクレーランド兄弟が、ブラッドノック川の岸辺に小さな蒸留所を建てたのがはじまり。かれらの本業は農業であり、副業でウイスキーづくりをはじめたのだ。そこから100年間ほど家族経営を続けてきた。その後10回も停止と再開の繰り返しで1993年に閉鎖が決まって、一時は取り壊しの危機があった。

開業時と同じく、稼働するのは年に1〜2ヶ月だけで、年間最大10万リットルを限度に少量生産される。ポットスチルは2基だけで、首のところが丸く膨らんだボール型だ。

1911年に北アイルランドのダンヴィル社が買収。この会社は、北アイルランド・ベルファストにロイヤル・アイリッシュ蒸留所を所有していた。アイルランドとスコットランドに蒸留所を持つ珍しい会社となった。ただし、1937年タンヴィル社は後継者不足により、DCL社(のちのUD社、現ディアジオ社)が買収。事業継続が買収の条件だったそうだが、買収後DCL社はこの会社が存続できないことを決定。

ブラッドノック蒸留所は何とか閉鎖されなかったものの、それから数年間に6度もオーナーが転々とした。1983年にブレンデッドウイスキー「ベル」で有名なアーサー・ベル社が買収。「Bell’s」の主要な原酒供給元だった。

その後アーサー・ベル社を買収したのがギネスグループ。そしてギネスグループがDCL社を買収したことで、UD社が誕生。モルトファンに人気の「花と動物」シリーズから「蘭」のラベルでリリース(1989~1993年発売)。そのUD社のモルトウイスキーシリーズ「花と動物」シリーズから「蘭」のラベルでシングルモルトがリリース。

ただその後、ウイスキー業界の長い低迷により、1993年に操業停止となってしまった。それからわずか1年後の94年、新しいオーナーに北アイルランドのレイモンド・アームストロング氏が名乗りを上げた。ただし、この時にディアジオ社との契約でウイスキー造りを禁止されてしまった。

2000年になり、やっとディアジオ社からウイスキー造りの許可が下りた。そこから年間約25万本がリリースできるほどになった。この時アームストロングの経営下で、ピーデッドモルトからアンピートモルトまでさまざまなヴィンテージのモルトウイスキーがつくられた。つい最近までこの蒸溜所は、アームストロングが蒸溜所を買収した時点で手に入れた古いモルトストックに依存していた。新しい生産は2000年に始まったばかりである。このため新しいウイスキーは比較的品薄だった。

その後、2015年にオースラトリア人の乳製品ビジネスを展開していた実業家のデイヴィッド・プライヤー氏が買収。オーナー交替で、1930年代から使われていた麦芽粉砕用のモルトミル以外、すべての蒸留所設備は一新した。翌年にはピュア・スコットという、新しいブレンデッドモルトウイスキーを発売。



確かにアームストロングの国籍と蒸溜所の地理的な特性は目立つ点ではあるが、この新しいウイスキーは多くの人々からアイリッシュ・ウイスキーとスコッチの間をつなぐものだと言われるに相応しいものなのである。軽いピート香が伴うものと、伴わないものもある。そのスタイルは新鮮な青りんごと洋梨を混ぜ合わせたもの―おそらく読者がアイリッシュ・ウイスキーから期待する丸みを帯びたフルーティさと同じものである。

ブラドノックは優れたものとなり、ウイスキー世界の地図に真の復帰を果たした。アームストロングのおかげである。アームストロングはかなりの額の資金をブラドノックに投資してきた。そしていまや美しく、よく整えられた蒸溜所になっている。

個人経営の利点を生かした興味深い運営がされている。例えば製麦棟をホールに改装して地元のミュージシャンに貸し出したり、ブラドノック川沿いの敷地をキャンプ場にして、観光客の誘致に積極的に取り組んだりしている。もちろんビジターセンターや売店等も完備している。またウイスキースクールを開講していたこともあり、2006年創業のダフトミル蒸留所の経営者はそこでウイスキー造りを学んだという。

現在の仕込みはワンバッチ5トンの麦芽を使う。メインはノンピート麦芽で、年間で2週間ほどピート麦芽を仕込んでいる。そこから2万5000ℓの麦汁を得る。発酵槽はダグラスファー製でケリーのドライイースト(ディスティラリー酵母として有名なイースト)を使っている。

そしてストレート型の初留釜とバルジ型の再留釜で蒸留。このスチルも熱効率のいい最新のテクノロジーが導入されていて、蒸留廃液で発酵モロミをプレヒーティングされるようになっている。ウォッシュスチルでは環流が少なくヘビーな酒質が得られるのに対し、スピリッツスチルでは雑味を含む蒸気が膨らみで環流するためライトかつクリーンな蒸気成分が凝縮されている。

スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式、冷却方式はシェル&チューブ方式を採用。

そして、今まであった原酒も樽の詰め替え(リカスク)をおこなった。今、ブラッドノックとしてリリースされているモノは、どれもリカスクをおこなったものだ。熟成に使用される樽はバーボン樽がメインだが、一部のボトルではワイン樽やオロロソシェリー樽熟成の原酒が使用されている。

ブラッドノック 10年; バーボンカスクで10年間熟成をおこなったボトル。ややミディアムに近いボティ甘草とバナナやバニラのニュアンスに、独特な肉っぽい厚みや醤油や出汁に近いニュアンス。

ブラッドノック 15年; オロロソシェリー樽で15年以上熟成させた一本。コクのあるタイプの芳醇なウイスキーで、チョコレートやカラメルプリン。紅茶のようなニュアンスに、ややミーティー感。深く芳醇で厚みのあるウイスキー。余韻も長く、満足感の強いモルトウイスキー。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。